東海道新幹線の将来の経年劣化・大規模災害に対する備え及び混雑緩和として、超電導リニアによる東京・大阪間を結ぶ「中央新幹線」建設が進められている。時速500kmで東京(品川駅)・名古屋(名古屋駅)間を40分、東京・大阪間を67分で結ぶことになる。開業は、東京・名古屋間が2027年、名古屋・大阪間は早ければ2037年となる。
この中央新幹線の通過予定地である山梨県都留市付近に山梨リニア実験線がある。ここでは、日々走行試験を実施しており、走行試験スケジュールの一部を活用し、一般の人の体験乗車(乗車時間:約30分)を可能にしていて、先日乗車をして来た。
体験乗車の様子
山梨リニア実験線に於いて、リニアは最も速い磁気浮上式鉄道として、ギネス世界記録を2度樹立している。
最初は2003年12月2日(時速581km)で、実験車両「MLX01」に於いて達成している。「MLX01」は、浮上方式が従来の底面に浮上コイルがある方式から現在の側壁浮上方式へと大改良が行われた車両である。
車両の外観はコチラを参照。
2度目は2015年4月21日(時速603km)で、実験車両「L0系」に於いて達成している。「L0系」は営業線仕様の新型車両である。
車両の外観はコチラを参照。
体験乗車は1日6便が運行されるが、私は1便に乗車した。
リニアに乗降する時は、乗客は駅のホームにいる感覚はなく、まるで飛行場のボーディングブリッジような設備を通ることになる。
これから高度0.00001万mを飛行することになるので、カッコ付けて空港のターミナルビルの印象を醸し出しているのかと思いきや、そうではない。リニアでは、ホームなどの建造物が走行に影響を与えないように車両とホームの間が1.5m離れ、かつ乗客を超電導磁石の磁界から守るために、ボーディングブリッジのような乗降設備を設けているのである。
なお、リニアに取り付けられている超電導磁石は非常に強い磁場を発生する(5万ガウスで、地磁気の10万倍に相当)が、車内の乗客に影響を与えないように(心臓のペースメーカーの限界磁場5ガウスを超えないように)、超電導磁石を鉄で囲んで磁気遮蔽を行っている。
車内は、一般の電車と同様に通路を挟み左右2座席が並んでいる。座った時の座席の空間は、既存の新幹線に比べ狭いと感じた。
山梨リニア実験線は、全長42.8kmで4市(笛吹市、大月市、都留市及び上野原市)にまたがり、トンネル区間が全長の82%(トンネル区間:35.1km)を占めているので、体験乗車ではリニア中央新幹線(東京・名古屋間は86%がトンネル)と同様に景色を楽しむことは殆どできない。
- 1回目:山梨実験センターから終点(東京方面)へ時速320kmで走行。
- 2回目:終点から起点へ時速500kmで走行。
- 3回目:起点から実験センターを通り越した35km地点当たりへ時速500kmで走行。
- 4回目:35km地点当たりから実験センターへ時速285kmで走行。
体験乗車の様子
動画の撮影内容は、1回目走行に於ける減速時のタイヤ走行に入るところから始まり、2回目走行に於ける全走行(終点から起点)までとなる。
殆どトンネル内を走行するので、窓からの景色は殆どなく、主に車内に取付けてあるモニターの撮影である。モニターの映像は、リニア先頭から撮影している進行方向のものが主であり、実験線の起点からの距離と時速も表示されている。
- 0分02秒:1回目走行時の浮上走行からタイヤ走行へ(路面に着くタイヤ)
- 1分47秒:2回目走行開始(終点からの出発なので、モニターに表示されている距離は終点の42.8km付近から起点の0kmへと向かって行く)。
- 2分39秒:時速140km台で、タイヤ走行から浮上走行へ。※1
- 4分23秒:時速500kmに達する(走行時間2分37秒、走行距離9.99km)。
- 6分24秒:減速を開始し、時速500kmを切る。
- 9分1秒:時速140km台まで減速した時点で、浮上走行からタイヤ走行へ。
先頭部分を見ると分かるように運転手のための窓が存在していない。通常の電車では運転手が運転を制御しているが、リニアでは運転を制御する装置そのものが車両に存在しなく、つまり運転手が乗車していないので窓も不要となる。運行を制御しているのは地上側の管理室(コンピューター制御)である。ただ、運転室はないものの乗務員室があり、乗務員がモニターで運行を監視し、緊急時の対処を車内からも操作できるようになっている。
乗車の感想
- 時速500kmで走行していても、特に気になるような揺れはなく快適な車内であったが、新幹線と比べると振動が大きいと思った。飲み物が入った紙コップを固定せず置くのに躊躇する振動である。
- また主にトンネル内を走行し、加速もスムーズなので、新幹線の倍近いスピードを出している感覚を全く受けなく、モニターに表示される速度で速さを知るのみである。スピードを肌で感じることがないので、スピードに対する感動は非常に薄く、モヤモヤ感が残った(前に掲載した車内から撮影した動画を見て迫力に欠けると思った方はコチラを参照)。
- タイヤ走行から浮上走行への切り替わりはスムーズでありアナウンスが流れないと浮上したことには気付かない。一方、浮上走行からタイヤ走行への切り替えは撮影していたカメラが大きく揺れる程の衝撃で、周りから驚きの「オ~」との声が漏れていた。「10㎝の浮上でも飛行機と同じかよ。」と突っ込みたくなった。
- 高度0.00001万mからのランディングなので、飛行機と同様に衝撃が発生するのは当然なのか?なぜ、コンピューター制御でソフトランディングできないのか?
- 飛行機の着陸に於いて衝撃のないように滑らかに路面に着くと、停止距離が長くなり、更に路面が濡れている状態ではハイドロプレーニング現象が起き易くなるため、パイロットは故意に衝撃を与えていると聞いたことがある。同様にリニアに於いても安全に停止できるよう故意に衝撃を与えているのだろうか?
- そもそも、通常運行のリニアに於いて、タイヤ走行中の減速にはディスクブレーキを使っているのだろうか。緊急停止には使うだろうが、通常は使っていないとしたらハイドロプレーニング現象が発生したとしても停止距離に影響がないように思うが、どうなんだろう?
超電導リニアは、上海で営業しているリニア(上海トランスラピッド)の様に常に浮上しているのでなく、一定速度を超えないと浮上できなく、その理由は次のとおり。
超電導リニア(L0系)台車側面には超電導磁石があり、地上のガイドウェイ(断面が凹字状の案内走行路)側壁にはコイルが並べられている。リニアが走行すると言うことは地上側壁に沿って走ることになるので、電磁誘導により側壁のコイルに電流が流れ電磁石になる。そうすると、台車と側壁の両磁石の間で吸引力・反発力が発生し浮上する仕組みである。この電磁誘導による力は、リニアが停止している時はコイルを貫く磁束に変化がないので発生しなく、リニアが走行して初めて発生し速度が速い程強くなることから、ある一定速度を超えないとリニアを浮上させるだけの力が発生しない。
なお、浮上走行の仕組みの詳細については、コチラを参照されたし。